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海苔ブログ
2022.04.08

海苔生産者インタビュー 1

徳永(とくなが)(よし)(あき)さん(61歳 光輪水産 2代目)

海苔もピアノも、継続は力なり

海苔の生産者として全国的に人気を誇る徳永義昭さん。忙しい合間を縫って独学でピアノを学び、フジコ・ヘミングさんとの共演などメディアでも話題になりました。一見かけ離れた「海苔」と「ピアノ」ですが、そこには一貫して目的を達成するために努力を惜しまない、徳永さんの姿勢があります。つらいこと、嬉しいこと。徳永さんに海苔作りの魅力を伺いました。

「あと1時間」の努力が味につながる

――海苔漁は過酷なものと聞きます。実際には、どんなところが一番大変なんでしょう。

徳永義昭さん(以下、徳永さん) 「眠たい」と「寒い」ですかねえ。海に出るのは12月から3月半ばまでの3カ月半ですが、それで毎年自然と10キロ痩せますからね。ちゃんとリバウンドして、また10キロ増えて、翌年また必ず減ります。

――その3カ月半はどんな生活になるんですか?

徳永さん 1日が6時間サイクルになります。例えば朝5時から6時間海で作業をし、家に戻って6時間休憩。17時から深夜23時まで海で作業して、そこから翌日の5時くらいまで寝る。でも、そうそうすんなり眠りに入れないし、結局、寝られて4、5時間ですね。

それに、海苔漁のつらいところは、潮の満ち引きと関係してくるので、作業時間が1時間ずつずれていくんです。人間のリズムと合わなくて、これが一番つらいかな。夜10時くらいから海っていうサイクルになれば、ちょうど眠くなる時間ですしね。畑だったら朝早くても夜はぐっすり寝られるのが少し羨ましかったりもします。

――徳永さんの場合はピアノの練習もありますからね。

毎日欠かさずピアノの練習をする徳永さんはyoutubeでも人気の海苔師兼ピアニスト
繊細な旋律を奏でる徳永さんの分厚い手
冬期には2倍の厚みになることも

徳永さん そうなんですよ。昼の休憩6時間の間で、2時間練習したい。毎日やらないと指が動かなくなるから。でも、実際問題、眠いしね、テレビも観たいしね、なかなかピアノの椅子に座れない。座っちゃえば弾くんだけど、そこまでの体が重いんですよ。冬は指がかじかんで、30分ほどもお湯に浸けないと動かないときもあります。

海苔も一緒。美味しい海苔は努力しなければ絶対にできないから。1時間サボったら、その分、必ず結果に影響します。1シーズンで1時間ずつサボったら、100時間になるわけですよ。これじゃあ、いい海苔は採れんですね。逆に100時間手間をかけた海苔は美味しくなる。だから頑張れます。

「種」と「干出(かんしゅつ)」に経験と腕が出る

――海苔の味、品質はなにによって左右されると考えていますか?

徳永さん 本当にたくさんの要素があるんです。40年以上やっているけど、最終的にどんな海苔になるかはわからない。100年やったってまったく同じ海苔ができる年はないでしょうね。

――そのなかで、徳永さんは「種」に定評があるとか。

徳永さん 私のところは、自分で種を採取してそれを漁協に培養委託しています。使う種は同じスサビの種なんですけれど、色、味、柔らかさ(歯切れのよさ)などいろんな特性の種がある。これをどうブレンドするかが、経験と腕の見せ所なわけです。

有明漁協の種苗センターで、種は牡蠣殻に付着させて育成される

――なるほど。ほかにはどんなところで差が出るんですか?

徳永さん 「干出」(網の高さを調節して海から網を出し、干すこと)もとても大事ね。干出時間をできるだけ伸ばして黒くて柔らかく、歯切れのよい海苔を作りたいんだけれど、もし、自分が海にいないときに強い風が吹いてしまったりして、干出過多になれば、たった一日で伸びが止まったり、堅くなってしまったりするんですよ。うまくいけば、黒くて美味しい海苔が完成する。面白い部分でもあり、最後の最後まで気の抜けない部分ですね。

――徳永さんにとって理想的な海苔とは?

徳永さん そりゃあ、「味推(あじすい)*1」や「有明海一番*2」みたいに高い評価をもらうのは嬉しいですよ。

本当はね、ギリギリまで薄くて口どけのいい、美味しい海苔を作りたい。でも、破れやすいから出荷できないものも多い。等級にもつながりませんしね。これはもう、身内で美味しくいただきますね。美味しさが口の中でふわ~っととろけますよ。

息子さんが後継者に。今はまだケンカばかり?

息子・陽一さんの「陽」のひと文字を入れた天陽丸の前で

――海苔業界は後継者問題が深刻ですが、徳永さんのところは息子さんが継ぐようですね。

徳永さん そうなんですよ。絶対継がないって言ってたんだけどね。助けてくれています。でも、今はケンカばっかり。

徳永陽一さん(息子さん。以下、陽一さん) 東京の芸能事務所で働いていたんですが、いったん辞めて、6年ほど前に戻ってきました。本当は退職後、1カ月ほど実家でゆっくりしてから東京にまた戻ろうと思っていたんですけれど、縁あって知人の会社の販売業務を手伝い始めました。販売をするうちにものづくりに対する考え方も変わってきて、その後2019年の結婚を機会に、しっかりと海苔を作ってみようと父と一緒に仕事をすることにしました。

正直、まだ「楽しい」とは思えてないですね。父の指導のもとで、やれと言われたことをやったり、ほかで聴いた意見を伝えたりしている段階です。

――新しいやり方を模索しているんでしょうか。

陽一さん まだそこまで行ってませんが、今のままのやり方では人手不足がますます厳しくなるでしょう。他県がやっている「潜り船(せん)」など、少人数でたくさんとれる方法を取り入れるなど工夫していかなければいけないかもしれません。

――今後どんな海苔を作っていきたいですか?

陽一さん 海苔は料理のメインにはならないじゃないですか。肉と海苔なら、みんな肉にお金を掛けますよね。だったら、脇役として輝く海苔を作りたいです。

――お父さんのことはどう思いますか?

陽一さん こんなに細かく仕事をしているんだ、とびっくりしました。ピアノのことで人の目に触れることも多いですが、まずは海苔師としてプロであり、しかも一流だということをもっと世に知らせたいとは思います。ピアノもそうですが、ずっと突き詰めてなにかをできる性格は尊敬しています。でも、言い方が下手だからすぐケンカになります。

徳永さん 従業員は叱っても黙ってついてきてくれるんですけど、息子は言い返してきますからね。だからケンカになるんでしょう(笑)。まあ、でも帰ってきてくれて安心しましたよ。

海苔は細かい工夫の積み重ねで、少しずつ、でも着実においしくなる。そういうことを、息子や彼の同世代に伝えていけたらと思います。

<まとめ>

サービス精神旺盛で、「苦手」と言いながらも人前に出ることを厭わない徳永義昭さん。「海苔師」という仕事を少しでもわかってほしい。苦労もだけれど、品質のいい海苔を評価して、美味しさを知ってほしいという気持ちからだとわかります。ケンカばかりと言いながら息子さんの姿に目を細める徳永さんは、海苔の未来を広く見つめているようです。

<海苔師のお気に入り! 海苔の食べ方>

・卵かけごはんを巻いて
・刺身を巻いて
・インスタントラーメンを作るときに丼に入れておき、溶きながら食べると最後は「海苔ラーメン」に

<注>

*1味推(あじすい)は、佐賀有明海漁連の入札会で使用される等級の1つ。
特に味とくちどけを重視したもの

*2有明海一番は、佐賀漁連の入札会で使用される等級の1つ